あなたが忘れっぽくなった原因はスマホにある

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椿

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近年、30~50代の「物忘れ」が増加している。その原因のひとつに、スマホの使い過ぎや情報収集のし過ぎが考えられる。この症状は「情報過多シンドローム」などと呼ばれ、脳に取り込む情報が多すぎて脳が疲弊した状態を指す。脳の機能を回復するには、一日5分ぼーっとするだけでも効果がある。

1、情報過多シンドロームとは

情報過多シンドロームとは、過剰な情報収集により脳がオーバーフローし、記憶力や判断力が低下する機能不全を起こすことだ。脳神経外科医、天野惠市氏によって名付けられた。

情報過多シンドロームの代表的な症状は「物忘れ」であり、軽度認知症の症状に良く似ている。近年、働き盛りの30~50代が物忘れ外来を受診することが増えている。しかし、脳検査や認知機能の検査を行っても異常は見当たらないという。

本来、脳の記憶容量は決まっていて、一度にインプットできる情報量や、情報処理能力には限りがある。しかし、インターネットが普及した現代社会では、脳の容量を超える情報にさらされがちだ。特にスマホは、文字、画像、音、光など情報量が多い。SNSを見たりゲームをして息抜きをしているつもりが、脳に過度な負荷をかけている。その結果、脳内が情報でパンパンになり、やがて機能不全を起こしてしまうのだ。

“スマホ脳過労” 記憶力や意欲が低下!?|NHKクローズアップ現代+

具体的な症状
・新しいことをなかなか覚えられない
・覚えたことをすぐに忘れてしまう
・知っていることを思い出せない
・2つの選択肢から1つを選べない
・常に忙しい気がする
・イライラして怒りっぽくなる
・興味が薄れ意欲がなくなる

2、情報過多シンドロームの原因

2、1、原因は前頭葉の疲れ

脳内で主に情報を処理しているのは前頭葉だ。過度なインプットによって、休む暇もなく情報を処理し続ければ、肉体と同じように前頭葉もやがて疲れてしまう。前頭葉には、「考える」「記憶する」「判断する」「応用する」などの働きもあり、前頭葉が疲弊するとこれらの働きが鈍る。その結果、記憶力や判断力が低下する。
また、前頭葉には「感情をコントロールする」「集中する」「やる気を出す」といった人間らしさを司る働きもある。疲弊した前頭葉は理性や意欲の制御にも影響をもたらし、怒りっぽくなったり無気力になったりすることもある。
これらの症状は、事故や病気で前頭葉が損傷を受けた場合に現れるものと似ている。

2、2、不の感情が拍車をかける

何か知りたい情報がある時、多くの人はネット検索をするだろう。しかし、ネット上には誤情報も多く、知りたい情報が見つからないこともある。悩みが解決しないと不快感や不安感が増幅し、そのことばかり考えてしまう。このように、不の感情は脳内をぐるぐると巡り、脳の処理機能に拍車をかけやすい。更に、「もっと情報収集をしなければ」と考えてしまい、悪循環に陥ることもある。

3、前頭葉疲れの例

ジャム理論
1995年、コロンビア大学で行われた研究で、「人間は、選択肢が多すぎると選択をやめてしまう」ということが分かった。24種類のジャムと6種類のジャムで購買行動を調査した結果、24種類では3%、6種類では30%がジャムを購入した。人間が短期的に記憶できる量は決まっており、24種類では容量オーバーになってしまう。その結果、疲弊を避けるために購入そのものを拒絶することにつながる。

決断疲れ
意思決定を長時間繰り返し前頭葉が疲弊すると、決断の質も低下する。プリンストン大学の研究によると、裁判で仮釈放を承認する割合は、朝と休憩後が最も高く、裁判官の終業直前は0%に近くなることが分かった。決断疲れが起きると「検討・思考すること」を止め、現状維持(仮釈放を否認)を選択しやすくなる。

裁判官の勤務時間の経過と仮釈放承認率の変化


司法決定における外部要因|PNAS
横軸が勤務時間、縦軸が承認率、点線が食事休憩を表す。

4、予防方法

4、1、ぼーっとする

ぼんやりしている時には、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という脳の回路が活発になる。DMNには、情報や記憶を整理する役割があり、インプットした情報をきれいに片付けてくれる。

心地の良い状況を空想する
森林浴をしたり海を眺めている様子を思い浮かべる。楽しい気分になれる空想は、脳の集中状態を解除しDMNを活性化させる。

単純な作業をする
家事や軽度の運動など、あまり頭を使わない単純作業をすると自然とぼんやりすることができる。皿洗い、靴磨き、選択物干し、散歩、素振り、スクワットなどがある。

仮眠をとる
DMNは睡眠中にも活性化するため、15分程昼寝をするとよい。昼寝が難しい場合は、椅子に座って目を閉じ、5分程呼吸に意識を向けるだけでもよい。

4、2、スマホから離れる

仕事でパソコン作業をしている場合、休憩中にスマホを触っていては脳が休まらない。意識的にスマホを手放したり、使用時間を制限することが賢明だ。

物理的な施策
トイレや寝室にはスマホを持ち込まない、食事中はスマホを使わないなどがある。自力では難しい場合は、「デジタルデトックス」を目的としたツアーやキャンプに参加する手段もある。

iPhoneの場合
スクリーンタイム機能を使う。この機能を使えば、特定の時間帯にスマホを休止させたり、特定のアプリの1日の使用可能時間を設定したりできる。Androidの場合は、同様のアプリを使う。

iPhone、iPad、iPod touch でスクリーンタイムを使う|Appleサポート

4、3、幸福ホルモンを分泌させる

情報過多シンドロームは、脳の容量の問題だけでなく、不の感情が原因となっている場合がある。情報収集からくる、不安や不信、不満、不快感、などの感情は、脳の処理機能に拍車をかける。幸福ホルモンであるセロトニンを分泌する活動をすることで、それら脳内のモヤモヤを解消できる。具体的には、スポーツをする、甘いものを食べるなどがある。デスクワークの場合はガムを噛むだけでも有効。

5、最後に

情報過多シンドロームは真面目で仕事ができる人に多く発症する傾向がある。症状が認知症やうつ病に似ているため、ショックを受ける人もいる。症状を悪化させないためにも、物忘れが増えた、仕事の精度が落ちたと感じたら、一度検査を受けてみよう。検査の結果、認知症やうつ病と判断されなかったのなら、情報過多シンドロームの可能性があり、回復の余地がある。

病気の治療法を調べる時間が増えた、経営に役に立ちそうな情報をチェックするようになった、など情報収集の頻度が増加した人も注意が必要だ。知りたいこと、分からないことは専門家に問合せるなどして、情報をインプットしすぎないようにしよう。

SOURCE
情報社会の新たなSOS。情報過多シンドロームとは|サワイ健康推進課
いまどきの健康常識|TKCグループ
その症状、ほんとうに認知症ですか?|東京脳神経センター
人間らしく生きるためには「前頭前野」が大事|Active Brain CLUB
いつもスマホが招く脳過労 物忘れが増えたら要注意|NIKKEI STYLE
DMNとは? 創造力を高め、脳疲労を防ぐために知っておくべき9つのこと|STUDY HACKER
“スマホ脳過労” 記憶力や意欲が低下!?|NHKクローズアップ現代+