講座やセミナーを開いたとき、キャッシュレスアプリの個人間送金で料金を支払いたいと言われたことはないだろうか?ほかにも、SNSでイラスト制作を受注したときなど、個人間送金で支払ってもらえば便利に思える。しかし、個人間送金で商品の代金や報酬を受け取ることは禁止されている。この記事では、PayPayを例にその理由を解説する。
1、概要
PayPayでは営利目的の個人間送金を禁止しており、個人間送金を使って報酬や支払いを受け取ってはいけない。この行為は下記の禁止事項に該当する。
第7条
PayPay残高アカウントの利用にあたっての禁止事項利用者は、次の各号に定める行為を行ってはならないものとします。
(7)当社のサービス(PayPay残高またはPayPay残高アカウントの利用を含むがこれに限りません)を、営利の目的その他、サービスの提供の趣旨に照らして本来の目的とは異なる目的で利用する行為
PayPay残高利用規約 第1編総則|PayPay
PayPayで支払いを受け取るには、実店舗がない事業者でも加盟店契約をしなければならない。加盟店契約をすると、「PayPay for Business」という加盟店用のアプリが利用できるようになる。PayPay for Businessには、QRコードを表示したり、お客様が提示したQRコードを読み取る機能が備わっている。実店舗がある場合はQRコードのスタンドやステッカーを設置し、実店舗がない場合はスマホを使って支払いを受ける仕様になっている。
PayPay for Businessのスクリーンショット
「PayPay店舗用アプリ」をApp Storeで|Apple
2、なぜ営利目的の個人間送金が禁止なのか
2、1、推測される理由
禁止されている理由は、個人間送金は「譲渡」として扱われているためだと推測される。通常の支払いは売買契約であるため、個人間送金とは区別されているのではないだろうか。
また、PayPay残高利用規約では、個人間送金でのトラブルに対してPayPayは賠償責任を一切負わないとしている。加盟店と個人のやり取りであれば、PayPay加盟店規約第15条の2に返品・返金の規約が設けられている。個人間送金には同様の規約はない。
第3条
譲渡(送金)(6)当社は、送金者および譲受人の間で締結された譲渡に係る契約が無効であったり、取り消された場合においても何らの影響を受けないものとし、これらに関連して送金者または譲受人その他の第三者に損害が生じたとしても一切の賠償責任を負わないものとします。
PayPay残高利用規約第3編PayPayマネー|PayPay
2、2、個人間送金のトラブル事例
PayPayの個人間送金では、お互いに送金し合うと約束し片方が送金しないという持ち逃げが発生したことがある。
このトラブルは、PayPayが「誰かに送金するとボーナスがもらえる」というキャンペーンを開催した際に多発した。このキャンペーンには、ユーザ同士で結託し同額を送金し合えば自己負担なしにボーナスがもらえる、という欠陥がある。これを利用し、「送金し合ってボーナスをもらおう」とSNSで持ちかけ、送金しない者が多数現れた。
このようなトラブルが起きた時、送金したPayPay残高は補償されない。システム上、返金処理や犯人の特定は可能と思われるが、サポートの対象外である。送金したPayPay残高を返してもらうには、譲受人に直接交渉するしかない。
3、PayPay以外の個人間送金では
個人間送金機能を持つ代表的なキャッシュレスアプリを調査したところ、PayPayと同様の規約が設けられていた。
LINEPay
LINE Moneyアカウント利用規約 第11条 LINE Moneyの譲渡(送金)4|LINE
個人間送金でのトラブル対応はせず、譲渡人と譲受人で解決するよう記載されている。
pring
pring利用規約 8.pringの送金|pring
個人間送金でのトラブル対応はせず、送金人と受取人で解決するよう記載されている。
楽天ペイ
楽天キャッシュ ルール 送付する|楽天キャッシュ
一度受け取られた送付のキャンセルはできないと記載されている。
4、その他の禁止事項
4、1、加盟店と個人間の決済での禁止事項
PayPayでは非対面でのQRコード決済が禁止されている。
第10条
加盟店における掲示 2項加盟店は、前項に定める措置を実施するにあたり、当社の事前の承諾のない限り、次の各号に定める行為を行ってはなりません。
(1)加盟店店舗以外の場所で加盟店バーコード等を提示するなど、加盟店店舗以外の場所においてPayPayの利用ができることを示すこと
PayPay加盟店規約|PayPay
具体例
・QRコードを自身のWebサイトなどに掲載する
・QRコードを電子メールで送付する
・オンライン会議でQRコードを提示する
※例外として、オンライン診療の利用申込みをした事業者は非対面決済が可能になる。
この規約は、PayPay加盟店のなりすましや、QRコード画像のすり替えを防ぐためだと推測される。同規約の第10条1項(1)には、「PayPayの加盟店店舗であることを示す当社所定の案内をPayPayユーザーの見やすい場所に掲示すること」と記載されている。
4、2、個人間送金での禁止事項
個人間送金では、非対面でのやり取りは禁止されていない。しかし、投げ銭は禁止されている。
個人送金受け取り用QRコードをSNS等に公開し、募金や投げ銭を収集する行為は、PayPayライト規約内『本来の目的とは異なる目的で利用する行為』に該当し、規約に違反する行為となります。
PayPay公式サポート|Twitter
「PayPayライト規約」は、規約改定に伴い「PayPay残高利用規約」に統合された。現在ではこちらが該当する。
なお、投げ銭でいう「本来の目的とは異なる目的」とは、マネーロンダリングや換金などを指していると思われる。
第6条
サービス利用にあたっての順守事項(6)当社のサービスのご利用に際しては、以下に定める行為(それらを誘発する行為や準備行為も含みます)を禁止いたします。
(カ)サービスを、マネー・ローンダリング、テロ資金供与、経済制裁関係法令等に抵触するおそれのある取引、その他換金目的など、提供の趣旨に照らして本来のサービス提供の目的とは異なる目的で利用する行為
PayPayサービス利用規約第1編基本ガイドライン第1章総則|PayPay
まとめ
報酬の受け取りに使いたいときは、加盟店登録をして対面決済する。個人間送金は「自分の意志でお金をあげる」目的にだけ使う。それ以外の方法は大方禁止されている。
PayPayのリリース直後には、この記事で取り上げたような細かい規約はなかった可能性が高い。トラブルと規約の改定が重ねられ、現在では制度の欠陥はほとんど見当たらない。
SOURCE
決済の流れを知りたい-加盟店様向けヘルプ|PayPay
PayPay残高を送る機能を利用したトラブルについて|PayPay
「PayPay送りあうと約束したのに返金されない」トラブル 見知らぬ人との残高送り合いに注意喚起|ITmedia
頑張っているあの人にPayPay残高を送ろう~ 頑張る人を応援したい方へ ~|PayPay
医療機関・薬局向けオンライン診療用QRコード決済|PayPay
7月29日:PayPay利用規約改定のお知らせ|PayPay