名誉毀損罪が成立するかはケースバイケース

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裁判所は「一般読者基準」に則って運用されている。一般読者基準とは、一般読者の普通の注意と読み方を基準として解釈した意味内容を指す。一般的にどのように読み取るかを基準とし、少数派の解釈は採用しない。この基準によって、下される判決は事例ごとに異なっている。この記事では、それをふまえた名誉毀損の主な条件を解説する。

1、誹謗中傷に関する法律

名誉毀損罪
公然と事実を摘示することで人の社会的評価を低下させること。事実とは実際に起こったか(真偽)を確認できる具体的な出来事をいい、本当のこと(真実)である必要はない。「公然」とは、不特定多数が知ることのできる状況をいう。本当かデマかに関係なく、「会社のお金を横領している」「不倫をしている」などと不特定多数に伝える行為が該当する。

侮辱罪
事実を摘示せず公然と人を罵ること。大勢の前で、「バカ」「ブス」などの明確な評価基準のない暴言を吐く行為などが該当する。

脅迫罪
人の生命・身体・自由・名誉・財産に対して危害を告げること。このことを「害悪の告知」といい、「殺すぞ」「家に火をつけるぞ」などの暴言が該当する。

恐喝罪
脅迫に加えて金品を要求すること。「お金を渡さないと殺すぞ」などが該当する。

強要罪
脅迫に加えて相手に義務のない行為をさせること。「土下座しないと本社にクレームを入れるぞ」などが該当する。

威力業務妨害罪
暴言などの威力を用いて他人の業務を妨害すること。店内で暴れる、大量のクレーム電話をかける、SNSに「店に爆弾を仕掛けた」と投稿するなどが該当する。

2、名誉毀損が成立する条件

まず、名誉毀損罪は「親告罪」であり被害者が告訴しなければ起訴されない。被害者が訴えを起こすと裁判が開かれる。また、刑事訴訟では故意の場合のみ名誉毀損が成立するが、民事では故意・過失のどちらの場合でも成立する。

2、1、事実の摘示がある

名誉毀損が成立するために必要な「事実」は、真実である必要はなく嘘でもよい。「あの人は不倫している」と言いふらされた場合、それが本当でも嘘でも「事実」に該当する。本当に不倫していたとしても、それを周囲に言いふらしたら罰せられる可能性があるのだ。

侮辱罪との違い
侮辱罪が成立するために事実の摘示は必要ない。侮辱とは「バカ」「クズ」など他人の人格を馬鹿にするような発言をすることを指し、発言に明確な評価基準がないためだ。

摘示された事実が複数のネット投稿に分かれていたら?
事実が複数の投稿に分かれている場合、一般的には前後の文脈や関連する投稿を一体のものとして、どのような事実が摘示されたのかを判断するだろう。そのため裁判所も同様の視点で判断する。

電子掲示板の同一のスレッド内の前後の投稿
(一部省略)
このようなインターネット上の掲示板の性質からすれば、ある書き込み・投稿が人の名誉を毀損するか否かの判断における「普通の読み方」としては、当該投稿はもちろんのこと、その前後の投稿の存在及び内容をも念頭に置いて判断すべきものと解される。

論点3(インターネット上の表現行為の特徴に関する法的諸問題)について

リツイートやいいね!は?
Twitterで名誉毀損に該当する投稿をリツイートした者を、名誉毀損であると判断した裁判例が複数ある。リツイートすると自身のタイムラインに元のツイートがそのまま載ることになる。そのため、元ツイートと同等だと判断された。また、ある裁判例では、「いいね!」は賛同の意思を示すものに留まり元ツイートと同視することはできないと判断された。SNSの投稿では、更に当事者の知名度や拡散具合も加味して、事例ごとに判断される。

本件投稿行為と控訴人の不法行為
(一部抜粋)
控訴人は、本件投稿をしたことを認めており、本件投稿により本件元ツイートの表現内容を自身のアカウントのフォロワーの閲読可能な状態に置くことについての認識を欠いていたことをうかがわせるような証拠はないから、本件元ツイートの表現の意味内容、すなわち、5本件投稿の表現の意味内容が被控訴人の社会的評価を低下させるものである限り、違法性阻却事由又は責任阻却事由が認められる場合を除き、控訴人は、被控訴人に対し、本件投稿について不法行為責任を負うものというべきである。

人の社会的評価を低下させる内容の表現を含むツイートを単純リツイートした者がその投稿について不法行為責任を負うとされた事例|最高裁判所

2、2、公然性

「公然」とは、不特定多数が認識し得る状態を指す。「認識し得る状態」で良いため、例え少数への摘示であっても、広く伝播していく可能性が予見できれば名誉毀損が成立する。SNSでは、Twitterなどへの投稿が当てはまり、DMやLINEなど1対1での発言は当てはまらない。

2、3、対象者が明確である

集団であろうと個人であろうと、対象者を具体的に名指していれば名誉毀損が成立する。対象者が匿名でも、前後の文章などから推測できる場合は名誉毀損となる。「日本人」や「愛知県民」などの漠然とした不特定多数が対象の場合は当てはまらない。

2、4、対象の社会的評価を低下させた

「社会的評価を低下させた」と判断する基準には、「一般読者基準」が大いに用いられる。例えば「Aさんにはギャンブルで多額の借金がある」という投稿があった場合、一般的にはAさんに対して否定的な評価をするだろう。
ただ、この判断基準はかなり曖昧であり難しい。また、一般人を基準とするため時代とともに変化し、前例と異なる判断が下されることもある。

3、名誉毀損が成立しない特例条件

以下の条件を満たしている場合は、名誉毀損が成立せず発信者を訴えることはできない。

この特例によって、政治家のスキャンダルや会社の不祥事は名誉毀損が成立しないことが多い。芸能人のスキャンダルや不祥事は、この特例が当てはまらないため名誉毀損が成立する可能性が高い。

事実に公共性がある
「公共性がある」とは、社会的利益があることを指す。政治家のスキャンダルは国民からの社会的評価に影響するため、この条件が当てはまる。芸能人は公務員ではないため当てはまらない。

公益目的である
事実を発信・公開する行為が社会的利益を目的としていることを指す。政治家の場合は、スキャンダルを公にすることで国民の利益となり得るため、この条件が当てはまる。芸能人の場合は、プライベートなスキャンダルを暴いたところで国民の利益とはならないため、当てはまらない。

事実が真実であるか真実である根拠が充分にある
名誉毀損の特例に当てはまるためには、事実が本当のこと(真実)である必要がある。真実だと証明できなくても、真実だといえる十分な根拠があれば成立することがある。

4、お店への口コミの判断基準

口コミは、事実を摘示しているものと意見・論評をしているものの2種類に分けられる。事実を摘示しているものは「あの店は食材の産地を偽装している」など、真偽を確認できるものを指す。意見・評論をしているものは「あの店のラーメンは不味かった」など、真偽を確認できないものを指す。意見・評論は事実の摘示がなく名誉毀損にはならない。口コミには抽象的表現の意見・評論が多く、単なる個人の感想だとみなされる可能性が高い。

ただし、意見・論評であっても「社会的評価が低下した」と判断されれば名誉毀損が成立することがある。以下のような口コミは名誉毀損にあたると認められる可能性がある。

強い表現を含んだ感想
「あの店の料理は不味すぎて吐き気がする。営業しているだけで犯罪だ」

具体的なエピソードを含んだ感想
「難病が治せると言われて施術を受けたのに全く効果がなかった」

嘘だったら信用毀損罪の可能性
信用毀損罪とは、虚偽の事実や根も葉もない噂を不特定多数に広め、人の勘違いを利用して経済的な信用を低下させることを指す。経済的な観点からみた、人・団体・取り扱っている商品の品質などが対象となる。

5、最後に

2022年7月に厳罰化されたのは侮辱罪である。SNSなどでの誹謗中傷を受けた有名人が、自ら命を絶った事件がきっかけとなった。厳罰化によって以下の2点の問題が緩和された。

刑罰が軽すぎる
厳罰化以前は、被害者が死亡しても9000円支払えば赦される場合があった。

時効が短い
ネット上での誹謗中傷の場合は加害者の特定に時間がかかる。厳罰化以前は特定する前に時効を迎えてしまうことがあった。

SOURCE
刑法|e-Gov法令検索
名誉毀損と侮辱罪の要件の違いと慰謝料の相場|弁護士費用保険の教科書
事実の内容で名誉毀損が認められる理由とは?成立しない3つの条件|IT弁護士ナビ
侮辱罪の法定刑の引上げQ&A|法務省
名誉毀損の要件|虎ノ門カレッジ法律事務所