1、マーケティング1.0(1900~)
製品を安く売り利益を最大化することを目的とした「製品中心のマーケティング」
産業革命の影響が大きい。物が少なかった時代に大量生産が可能になり、安ければ売れるという概念が浸透していった。
1、1、4P分析
製品やサービスをどのように顧客に届けるかを分析することで、販売戦略を企画・立案する。4つの要素を個別に見るだけでなく、相互にどのように関連しているかを考慮することが重要。例えば高品質な製品であれば、高価格帯でブランドイメージを高めるPRを行う、といったように整合性を持たせる。また、4P分析は新製品の企画段階で使われるほか、既存製品では現状分析・改善に活用される。市場や顧客の変化に合わせて定期的に見直すことが推奨されている。
Product:製品そのものやサービス内容。顧客のニーズを満たすために必要な要素を検討する。製品のデザインや品揃え、サービス内容、ブランドイメージなどが当てはまる。
Price:製品やサービスの価格。仕入れコスト、競合の価格、顧客の支払い意欲などを考慮して検討する。
Place:流通経路や販売チャネルなど、製品やサービスを顧客にどのように届けるかを検討する。顧客が製品を入手しやすい仕組みにするのがポイント。
Promotion:製品やサービスの情報を顧客に伝え、購買意欲を高める手段を検討する。広告媒体の選択、イベント企画などPR活動、ポイントプログラムなど販売促進、などがある。
2、マーケティング2.0(1970~)
顧客のニーズに合わせる「消費者志向のマーケティング」
企業が価格競争をした結果、物の供給が安定した頃には似たような製品が市場に溢れてしまい、顧客が理由を持って製品を選ぶことがなくなった。そこで、「どのような製品が顧客を満足させられるか」という点に焦点が当たるようになった。
2、1、STP分析
ターゲットとする顧客を明確にし、その顧客にとって最も魅力的な立ち位置を確立するためのフレームワーク。マーケティングの初期段階で活用されるものであるが、既存製品に対して、ターゲット層やニーズ、競合他社との差別化などが適切であるかを定期的に見直すこともできる。
[1]Segmentation:特定のニーズや顧客特性に焦点を絞った市場において、何らかの基準でグループ分けをする。基準には、地域、年齢、性別、価値観、ライフスタイルなどがある。
[2]Targeting:セグメントを1つ選ぶ。市場規模や収益性、競合優位性、自社の強みとの適合性などを考慮して検討する。
[3]Positioning:競合に対して、どのような独自の価値を顧客に提供できるかを検討する。「○○といえばこれ」というイメージを形成することを目指す。
3、マーケティング3.0(1990~)
消費者の精神に働きかける「価値主導のマーケティング」
インターネットが普及したことで情報収集が容易になった。企業は他社のアイデアを模倣した類似品を販売し始め、デザインや機能で差別化することが難しくなった。そこで、ブランドイメージを確立し、他社には真似できない独自性をアピールするよう方向転換していった。顧客はSNSで下調べや比較調査を行うようになり、製品・企業に関する情報や製品に込められた思いなどが広まるようになった。その結果、情報に共感し精神的充足を得た者が購入・拡散する、という流れが生まれた。また、環境問題や貧困問題などの社会課題が顕在化し、企業は社会貢献をテーマにブランディングを行うようになった。この場合も、製品の価値観に共感した顧客が購入する流れとなっている。
3、1、融合しているマーケティング
協働マーケティング
製品開発やコミュニティに顧客を参加させ、「共感→拡散」の流れを意図的に引き起こす手法。顧客を製品を購入するだけの存在ではなく、共にブランディングを図る「協働者」として扱うことが特徴的。インターネットが普及し顧客の情報発信が容易になったことによる影響力は、企業が無視できない水準になっていることを象徴している。
文化マーケティング
社会問題が人々の消費行動に影響を与えることを考慮し、顧客の関心や欲求に応えていく手法。国際化が進んだことで新たな社会問題が誕生したことが背景にある。国ごとの方針の違いによる衝突や不平等な関係性、海外からのサービス流入による国内産業の衰退や外国人との雇用の奪い合い、自国の伝統や個性の喪失などが挙げられる。
スピリチュアルマーケティング
企業が社会問題の解決を掲げ、真摯に活動することで顧客の精神に訴求していく手法。誰もが社会の作り手となれる世の中になり、自己実現欲求の強い顧客が増加したために生まれた。それらの顧客は「幸福になるには」「世の中を良くするためには」といった大義に共感しやすく、企業も製品に精神的便益を組み込むようになった。
3、2、価値共創のフレームワーク「3i」
顧客の理性・信念・直感に訴求するフレームワーク。マーケティング3.0では、製品を販売するだけでなく価値観に基づく関係性を顧客と構築することが鍵となる。
ブランド・アイデンティティ:理性への訴求
「ブランド名」と「ポジション」の要素によって、顧客に製品ジャンルとターゲット層を示す。顧客は、それらの情報から自分にニーズがあるかを判断する。
【例】無印良品(ブランド名)×合理的な価格で実用的な生活用品
ブランド・インテグリティ:信念への訴求
「ポジション」と「差別化」の要素から、誠実・高潔な取り組みを独自に行うことで同じポジションのブランドとの違いをアピールする。顧客は企業のふるまいに共感し、信頼度を上げていく。
【例】合理的な価格で実用的な生活用品×シンプルなデザインでコスト削減・エコ
ブランド・イメージ:直感への訴求
「差別化」と「ブランド名」の要素から成り立ち、誠実・高潔な取り組みを続けることでブランドの価値観を定着させる。顧客は良い印象のブランドには好意を持ち、やがて感情的なニーズが湧くようになる。
【例】シンプルなデザインでコスト削減・エコ×無印良品(ブランド名)
3、3、企業理念
企業は、ブランドの価値観を顧客に定着させるために、一貫した価値観に基づく活動を継続的に行っていく。そのためには、価値観を企業理念に盛り込み、共感してくれる顧客を引き寄せる必要がある。また、同時に社員の共感を集め、ブランドの価値観と社員の行動指針と合致させておくことが推奨される。社員のふるまいがブランドの価値観と合っていなければ顧客の共感は得られず、競合ブランドに乗り換えていくこともある。
ミッション
企業が果たすべき使命や役割。企業の存在理由とも定義され、どのようなことで社会に貢献するのか、何のために事業を営んでいるのか、を言い表す。基本的に変更することはないため、漠然とした内容で良い。
ビジョン
企業が目指す将来像や、達成したい目標。一般的には、ミッションを遂行していった先の具体的な到達点と考えるが、ミッションを達成するための目標と考えてもよい。ミッションを軸にビジョンとの整合性が取れていることが重要である。
バリュー
組織が活動する上で大切にしている価値観や信念、従業員が共有すべき行動規範を示すもの。何を大切にしているのか、どのような行動を重視するのか、という組織文化や行動を表す。
ミッションの例
【スシロー】「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」
・おいしさの提供(セントラルキッチンを持たない店内調理、産地のアピール)
・感動体験の提供(斬新なメニュー開発、食べ合わせの提案)
【くら寿司】「Food Revolution = 食の変革」
・安全の提供(四大添加物不使用、ドーム型の皿カバー)
・新しい体験の提供(皿回収システムとビッくらポン!)
【かっぱ寿司】「お客様の喜びが私たちの喜びです」
・企業やブランドに対する愛着や周囲に推奨したい度合いを測る「NPS」の導入
※原価を抑制し「ネタの品質が低い」という印象がついた経緯があり、現在リブランディング中と思われる。
4、マーケティング4.0(2010~)
顧客が製品を手に入れることでより高次の欲求を満たす「自己実現型マーケティング」
製品の価値への共感、製品開発への協働、社会問題への貢献など、これらの活動を通じて顧客は自らの要望を叶え社会に影響を与えられるようになった。顧客の発信した情報は企業が発信したものよりも信頼を獲得することもあり、製品を購入する際には口コミを確認することが一般的になった。これらの顧客の承認欲求の高まりと、口コミの信頼性・影響力の高さから、企業は「推奨者」を増やすことを最終目的とする傾向が高まった。「推奨者」とは、インターネットで製品を宣伝してくれる消費者を指す。推奨者を増やすためには、購入行動の流れの再構築や、オンラインでの体験の導入が必要となる。
4、1、カスタマージャーニーの変化
これまでの顧客体験の流れは限定的であったが、近年ではインターネットの普及によって様々に分岐している。製品を知り顧客体験が始まるタイミングや、製品の情報収集を行う手段が様々であるためである。販売戦略を立てる上で顧客の心理を理解し行動を予測する必要が生まれ、カスタマージャーニーが活用されている。
従来のフレームワーク「4A」
【段階】認知→態度→行動→再行動
【顧客行動】ブランドを知る→好感を持つ→購入する→リピートする
各ステージの顧客数は逆三角の構成を取り、ステージを進むごとに人数が減っていく。
再構成されたフレームワーク「5A」
【段階】認知→訴求→調査→行動→推奨
【顧客行動】ブランドを知る→価値観に共感する→情報収集をする→購入・使用・アフターサービス→リピート・他者に勧める
最大の目的は顧客が「認知」の状態から「推奨」の状態に進むことであるが、顧客は各段階を順番に進むとは限らない。
4、2、カスタマージャーニー「5A」の産業類型
「5A」には、特有の行動パターンを持つ産業がある。マーケティング4.0では、認知から推奨への移行率が高い状態が理想とされており、「蝶ネクタイ型」が該当する。しかし、全ての製品において蝶ネクタイ型が最適とは限らず、製品ごとに顧客行動を最適化させる方が望ましい。産業ごとに特徴を考慮して顧客行動をサポートし、各段階で顧客満足度や愛着精神を高めることが重要だ。
漏斗型
【コンバージョン率】[認知]>[訴求]>[調査]>[行動]>[推奨]
【特徴】全ての状態を順番に通る、最も典型的な型。情報収集の手段が多様化したことで、いずれかの段階を省略する顧客が増加した。ただし、初めて購入するブランド、アレルギーなど健康に関わる、出費を伴うため失敗したくない、など慎重に購入を検討する顧客はこの流れを取る。
【施策】どんな製品にも発生する顧客行動であるため、全ての製品で全ての段階を整備しておくと良い。各段階で顧客が求めているものを提供することで、顧客は安心して意思決定ができ満足度が高まる。
【具体的な施策例】
[認知]:顧客が製品の存在を知るきっかけを作る。SNS広告、コンテンツ配信など。
[訴求]:製品に関心を持ち、もっと知りたいと思わせる。製品の魅力やメリットの発信など。
[調査]:製品の性能を調べ納得させる。仕様や原材料の公開、購入前問合せサポートなど。
[行動]:ストレスのない購入体験を提供する。使いやすいオンラインショップの整備など。
[推奨]:他の人にも勧めたいと思わせる。ファンクラブ運営、SNS投稿の促進など。
蝶ネクタイ型
【コンバージョン率】[認知]>[訴求]>[調査]<[行動]<[推奨]
【特徴】[認知]から[推奨]への移行率が高く、顧客の多くがブランドを知った時点で他人に薦める状態。[訴求]から[行動]への移行率も高く、ブランドに魅力を感じた顧客は情報収集の必要性を感じることなく購買に進む。
【施策】高いブランド評判と的確なターゲティングが必要となる。初期段階からブランディングを行い、製品の良さを理解し広めてくれる顧客層にアプローチすることが重要。
【具体的な施策例】
[認知]:ターゲティング広告、ブランドと親和性の高いインフルエンサー起用
[訴求]:ベネフィットの訴求、ブランドストーリーの公開
[行動]:訴求された顧客がスムーズに購入できる導線の整備
[推奨]:使用者向けのSNS企画、使用者コミュニティの形成
ドアノブ型
【コンバージョン率】[認知]>[訴求]>[調査]<[行動]>[推奨]
【特徴】[訴求]から[行動]への移行率が高いが、最終的に[推奨]までは進まない。日用品や消耗品など、安価で愛着が湧きにくい製品がこの型になりやすい。関心を持ったらあまり検討せずに購入し、他人に勧めることも少ない。
【施策】愛着が湧きにくいため、購入後も顧客と接点を持ち製品への興味・関心を惹き続けることが有効。思わず手に取りたくなるようなデザインにするなど、[訴求]の質を高めるのも良い。
【具体的な施策例】
[訴求]:魅力的なデザイン、期間限定版、環境への配慮をPR
[行動]:おまけをつける、開封時の喜び体験、豆知識の配信
[推奨]:使用者向けのSNS企画、使用者コミュニティの形成
金魚型
【コンバージョン率】[認知]>>[訴求]<[調査]>[行動]>[推奨]
【特徴】[認知]から[調査]への移行率が高く、BtoB市場でよく見られる。企業は自社のニーズに合わせて性能やコストを調査し購入するため、ブランドへの愛着は薄く[訴求]が省略されやすい。価値観による差別化がされず、コモディティ化(価格競争)に陥りやすい。
【施策】BtoB市場においては、顧客は具体的なニーズや課題に基づいて製品を検討する。そのため、感情的な訴求よりも、合理的な情報提供と意思決定のサポートが有効な場合もある。その場合は、[訴求]の強化よりも、質の高い情報をスムーズに提供し、[調査]から[行動]への移行を図る。その後も同様に、[行動]から[推奨]への移行がスムーズになるよう支援すると良い。
【具体的な施策例】
[訴求]:特定の課題解決を謳う、特定の業界特化を謳う
[調査]:詳細な仕様の提示、無料トライアル、導入効果測定
[行動]:導入サポート、オンラインマニュアルの充実、ウェビナーや勉強会
[推奨]:導入効果インタビュー、顧客満足度アンケート
トランペット型
【コンバージョン率】[認知]>[訴求]>[調査]>[行動]<[推奨]
【特徴】[行動]を省略して[推奨]に移行する者が多い。ブランドのファンであるが、高級なため買いたくても買えない、ニッチな業界のため購入はしない、希少性が高く購入できない、といった顧客を抱えている。
【施策】既にブランドの価値が築かれているため、ブランド価値を維持・向上させながら長期的な信頼関係構築を目指すと良い。価格を下げる、販路を拡大するなど、[調査]から[行動]への移行を促す施策はブランド価値を損ねてしまう。
【具体的な施策例】
[訴求]:会員限定・数量限定・オーダーメイドなどのPR、価値観を強調した宣伝
[調査]:体験会、丁寧な問合せ対応やヒアリング、ブランドに関するニッチな情報発信
[行動]:ラグジュアリーな店舗での購入体験、オーダーメイドの挙式
[推奨]:ファンコミュニティ・クローズドな特別コミュニティの形成、交流会、
4、3、マーケティングの定義の改訂
マーケティングの定義
公益社団法人日本マーケティング協会
(マーケティングとは)顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。
2024年1月25日に改訂され、従来の「売るための戦略」とは概念が大きく変化した。顧客と共にブランディングをして価値観を広め、様々な関係者と協力し合いながら、最終的には社会への貢献を目指す、というものである。
4、4、購買の意思決定とコストパフォーマンス
コストパフォーマンスは、顧客の購買の意思決定の軸となる。カスタマージャーニーでは、各段階における顧客体験の質を左右し、段階の進行や離脱を引き起こす重要な要素となる。各段階で最適な顧客体験を提供し、「このコストパフォーマンスなら価値がある」と次の段階に進ませることがポイントである。
コストの種類
金銭的なコスト:商品やサービスの価格、購入時にかかる費用、維持費、解約費用など。
時間的なコスト:店まで向かう時間、購入手続きの時間、商品の効果を感じるまでの時間など。
労力的なコスト:店まで向かう手間、購入手続きの手間、情報収集の手間など。
心理的なコスト:がっかりしないか不安、より良い物がないか不安、使い続けるか不安など。
パフォーマンスの種類
機能的パフォーマンス:充実した機能、性能の高さ、耐久性など
利便性パフォーマンス:購入しやすい、操作しやすい、手入れしやすいなど
感情的パフォーマンス:デザインへの愛着、ブランドステータス、使い心地の良さなど
社会的パフォーマンス:リサイクル可能、フェアトレード品、一部が寄付されるなど
第一のライン:パフォーマンス
顧客は特定の目的を達成するために購買活動を開始する。しかし、どんなにコストが低くても、製品から得られるパフォーマンスが顧客の持つ閾値を越えなければ購入検討に至らない。同じ製品であっても、顧客ごとに優先される要素や求める数値が様々なため、閾値は人それぞれ異なる。
第二のライン:コスト
顧客が支払えるコストには上限があり、それは個人の経済状況や特定の価値への思い入れによって変動する。経済的キャパシティは直接的な要因となり、たとえ製品の価値が高くても予算オーバーの場合は購入を断念する。ただし、強い情動がある場合は支払い意欲が増幅し、経済的キャパシティを超えて購入を決定することがある。
第三のライン:コストパフォーマンス
顧客は自身の価値観に基づいてコストとパフォーマンスに重み付けをし、双方が見合っているかを総合的に判断する。見合わなかった場合は「コストパフォーマンスが低い」として購入されない。
5、マーケティング5.0(2021~)
テクノロジーを駆使して人々の暮らしをより豊かにすることを目指す「人間中心マーケティング」
カスタマージャーニーの5Aの各段階にテクノロジーを組み込み、顧客体験全体を向上させ、より質の高い価値提供を実現することを目指す。人間には、テクノロジーの恩恵を受ける顧客と、テクノロジーを活用する企業側の人々の両方が含まれる。
新たな課題
この先市場の中心となっていくZ世代以降は、生まれた時からテクノロジーと共生している。従来の顧客とは異なる価値観・行動が見られるため、アプローチ方法を調整する必要がある。
また、テクノロジーの活用により経済格差が生まれる。働く側では、高度なスキルを持たない者の失業や低賃金化のほか、テクノロジーを活用できる一部の大企業が市場を独占し、中小企業や地域経済が圧迫されることも考えられる。消費者側では、顧客分析が高度化し、支払い能力によって案内されるサービスに価格差が生じる可能性がある。ホテルのグレードや航空券、美容・医療の施術コース、ネット広告などが挙げられる。
そのほか、格差は情報通信技術の利用能力によっても発生する。テクノロジーにアクセスできる環境、利用スキル、情報を取捨選択する能力などに差が生じ、テクノロジーを活用したマーケティングの障壁となる。企業は、これらの社会課題を解決することを目的としてテクノロジーを活用していかなければならない。
5、1、5つの構成要素
データドリブンマーケティング
顧客に関するあらゆるデータを収集・分析し、その結果に基づいてマーケティングの意思決定を行う、というマーケティング5.0の基本的な考え方。勘や経験ではなく客観的なデータに基づいて進めることで、施策の精度と効果を高めることができる。また、大量の顧客データが取得可能になると、顧客一人ひとりにパーソナライズされたアプローチができるようになる。顧客のニーズを把握し、最適なタイミングで顧客が求めている情報を提供することで、顧客の意思決定もサポートが可能となる。
予測マーケティング
過去のデータや現在のトレンドを分析し、顧客行動や市場の変化を事前に予測する手法。ビッグデータの膨大なデータとAIの高度なデータ分析によって、高精度な予測が可能となった。従来は売上や市場動向の予測が中心であったが、顧客の離脱タイミングや長期契約となるかといった詳細な顧客行動の予測が実現できる。
・製品の在庫過多を予測しタイムセールを提案
・過去の成功事例を元に共感を呼びやすいブランドストーリーを新たに生成
・購入・閲覧履歴から、顧客が新たに興味を持つコンテンツを推測し提案
コンテクスチュアル・マーケティング
顧客が置かれている状況に合わせて最適なアプローチを行う手法。顧客は必要な時に必要な情報を受け取ることを期待しており、それを実現することで顧客体験の質を向上させることができる。位置情報や時間帯に合わせた広告配信、購入履歴に基づいた商品紹介などは既に実現している。
・ウェアラブルデバイスで取得した生体データから感情を分析し、最適な音楽を流す
・eラーニングで、学習者の理解度や関心度に合わせて動画の内容が変化する
・冷蔵庫の在庫とスーパーの特売情報を連携し、買い物リストを提案する
・AIエージェントが現在の気分や健康状態を把握し、最適な情報提供や会話をする
拡張マーケティング
人間を模倣したテクノロジーを活用して、顧客体験の向上を図る手法。既にチャットボットやロボット店員によって、24時間対応や人員削減が実現されている。人間は人間にしかできない業務に注力することで、顧客満足度を高めることができる。また、テクノロジーが行った顧客対応はデータとして収集することができ、潜在的なニーズや課題の発見につながる。
・実店舗でAIによる商品説明など、接客対応
・スマートグラスに商品説明が映る
・ロボットによる、商品陳列、清掃、レジ対応
・Web上での診断コンテンツ、クイズ、シミュレータなど、ニーズ調査やヒアリング
アジャイル・マーケティング
アジャイル開発の考え方を取り入れ、短いサイクルで計画・実行・評価を繰り返す手法。市場環境や顧客のニーズは短期間で変化する傾向があり、従来の長期的に計画を敷いたプロジェクトでは対応が難しくなっている。短いサイクルで実行・評価を行うことで、柔軟な計画変更、継続的な改善が実現できる。チームは、様々な部門から必要なスキルを持つ者を招集して構成される。各分野の視点を融合させることで多角的なアイデア出しができ、部門間の連携不足による遅延・手戻りを防ぐ。
・SNSサービスの新機能追加プロジェクト
[1]有料ユーザ限定で告知・提供
[2]フィードバッグを受け機能改善、PR内容の調整、FAQコンテンツの作成
[3]一般公開に向けて本格的に宣伝を開始
・化粧品の新ブランドPRプロジェクト
[1]美容インフルエンサーとコラボ企画を行う
[2]Web診断コンテンツを制作し、結果に基づいた試供品を配布
[3]効果が高った方に注力していく
・飲食店のヒット商品制作プロジェクト
[1]いくつか期間限定商品を提供する
[2]フィードバッグや売上を分析し、改善する
[3]人気の商品は定番化し、アイデア強化や事業展開を行う
6、まとめ
マーケティングは時代の流れとともに姿を変え、2000年以前のものとは全く異なっている。マーケティングを活用する者たちにも同様のスピードの変化が求められ、対応できなければあっという間に置いていかれてしまう。時代の潮流を捉え、有効なツールを活用し、生産性を高めていくことが求められている。