1、男性脳・女性脳とは
1、1、男性脳・女性脳の違い
人は胎児の状態では女性の形をしており、体は精子の持つ染色体によって遺伝的な性別が決定する。その後、男性ホルモンの影響を受けた場合に男性の体に分化していく。大抵は遺伝的な性別の体になるが、遺伝子の異常により体が上手く形成されない場合もある。性の分化は脳でも起こり、男性ホルモンの量が多いと男性としての性行動を取る脳になり、男性ホルモンの量が少ないと女性としての性行動を取る脳になる。このため、女性の体でありながら男性的な行動をする、男性の体でありながら女性的な行動をする、ということが起こり得る。
解剖学的には、女性の方が脳梁(右脳と左脳をつなぐ神経の束)が太く、脳の性分化の際に細くなる。ただ、脳梁の太さには個体差があり、年齢・人種・社会的要因などによっても変化するため、現在では「男女差はない」という説が最も有力となっている。また、心理的な性の決定や体・脳の発育には出生後の生活環境も大きく関わっていると言われており、男らしさ女らしさはその過程で形成されると考えることもできる。
しかしながら、男女間で脳梁の太さに差がないとは思えない。脳外科医の中には、男女に差があると感覚的に感じている者もおり、AIも脳の写真から性別を判別することができる。さらに男女の思考には傾向があり、明確な根拠は発見されていないが脳梁の太さの違いによるものと仮定すると辻褄が合うのである。そして、この男女の思考の差が言動やコミュニケーションに違いを生み、日常生活の中で誤解や対立に発展するなど人間関係に様々な影響を与えている。
1、2、大まかな特徴
女性ホルモンであるエストロゲンは言語能力や感情処理能力を高めるとされており、女性は会話によるコミュニケーションや感情表現を得意な傾向を持つ。男性ホルモンであるテストステロンは、空間認知能力を高め感情表現を抑制する働きがあると考えられており、男性は現状を把握する力や論理的な思考回路が発達していると言われている。
この記事では、便宜上、女性は女性脳を持ち男性は男性脳を持っているとする。
2、女性脳の特徴
2、1、共感性
女性脳は、左脳の言語処理能力が発達しており、感情や思考を言葉で表現する傾向が強い。また、右脳の感情処理能力も発達しているため、共感力や洞察力にも優れている。更に、言語処理能力やコミュニケーション能力に関わる上側頭回が男性よりも大きい傾向があり、人とコミュニケーションを取ることで満足感を得ることができる。
論理的な思考よりも直感や感情を重視する傾向は、会話に顕著に表れる。結論や解決策の探求よりも会話そのものを楽しみ、目的やオチがなくても雑談が弾み相手との距離を縮めることができる。また、悩みや困りごとについて話しているときでも、解決したくて相談しているのではない場合が多い。悩ましい気持ちに理解を示してほしいだけであり、解決策を提示したり原因究明をしたりすると不快にさせる可能性がある。
女性脳に合わせた会話例
女性「このレストラン、可愛くない?」自分「ここに行きたいの?予約する?」
自分「ほんとだー!レトロでかわいいね!」
女性「デザートもかわいいの」自分「ケーキが食べたいなら今度銀座で買ってくるよ」
自分「そうだね、このケーキ特にかわいい!」
女性「SNSで広告が流れてきてつい見ちゃったの」自分「広告を表示させないアプリ教えてあげるよ」
自分「こんなにかわいいと広告でもつい見ちゃうね笑」
2、2、プロセス指向
女性脳は出来事の経緯に焦点を当てる思考回路が発達しており、過去の記憶を思い出したり未来を想像したりして危機を回避する傾向がある。例えば、子どもの具合が悪くなったときは、前日の様子や以前体調を崩したときのことを思い出し、原因や対処方法を探す。買い物をする際には、家族の習慣を元に、家族が勝手に使ってしまう分を推測して商品や数量を選定することができる。
経緯に重点を置く弊害として、説明が長くなりやすい。結論に至るまでには様々な奮闘があり、女性脳は「あんなことがあって、こんなことがあって」と経緯を語る傾向がある。そのため、最初に結論が語られなかったときは、聞き手は結論が分かるまで口を挟まないよう心掛ける必要がある。途中で口を挟んでも話にはまだ続きがあり、本来伝えたいことまで到達していない可能性があるからだ。話している方からしたら、話の邪魔をされているだけなので不快に感じてしまう。また、結論ではなく理由(なぜその結論に至ったか)から話し始めてしまう傾向があり、話が飛躍して聞こえる場合もある。
仕事では、律儀に手順を守って作業したり、時間がない時でも完璧な資料を作成しようとしたりと、作業の手順を重要視して融通が利かないこともある。
理由から話してしまう会話例
上司「急で申し訳ないが、今日残業してくれないか」
女性「明日彼とデートなんで、今日エステに行くんです」
上司「突然何の話だ?」
女性「そのお店、なかなか予約が取れないんです!」
上司(エステをキャンセルしたくないから残業できないって言いたいのか?)
2、3、感情トリガー
女性脳は男性脳と比較して情緒処理能力が高い。そのため、感情を手掛かり(トリガー)に記憶を想起することができ、ある感情が湧くと、同じ感情を味わった経験を反射的に思い出す傾向がある。過去の類似した経験の記憶も芋づる式に思い出し、それらの記憶はまるでその出来事を再び体験しているかのように鮮明であるといわれている。この傾向には日常生活に潜む危機を回避する目的があり、不安や恐怖などの感情トリガーがリスクを察知するフラグの役割をしている。
感情トリガーは自身の経験や感情のほか、他人の話に共感した場合にも作られる。女性は男性よりもミラーニューロンの数が多い。ミラーニューロンは、他者の行動や感情を観察する際に、あたかも自分が同じ行動や感情を体験しているかのように活性化する細胞だ。女性は経験や感情を共有・共感することで、危機察知フラグを量産しているといえる。
感情トリガーの対象となる感情は喜怒哀楽全てである。楽しい・嬉しい記憶が想起される場合は問題ないが、怒りや悲しみが想起される場合はトラブルに発展しやすい。例えば、喧嘩をした際には過去にあった類似の出来事が鮮明に想起されてしまう。女性がこちらに傷つけられた話や腹が立った話を蒸し返したときは、たった今起こった出来事だと思って誠心誠意謝るべきである。
蒸し返しをなくすには、女性の気持ちが穏やかなときに自発的にしみじみと謝ることが有効だといわれている。蒸し返しへの謝罪は蒸し返された感情を相殺することに使われてしまうため、原本への謝罪を行うことで謝罪の意思を伝えることができる。
3、男性脳の特徴
3、1、問題解決指向
男性脳は、前頭前皮質や海馬などの問題解決に関わる脳領域が発達している傾向がある。前頭前皮質は問題の分析や解決策の検討、計画立案の役割を持ち、海馬は空間的な情報を処理したり、現状を把握する役割を持っている。そのため、論理的に思考し、問題解決策を導き出すことを得意としている。
基本的に、問題が起きてから目の前の状況を分析し、今できることを迅速に遂行する傾向がある。論理的思考と分析力に優れているため、目標がある場合は過去のデータや現在の状況を分析することで、未来に起こり得る出来事を推測することができる。代わりに、人の感情や意図といった、不確定な情報に基づいて直感的に推測することを苦手としている。
女性は直感的な推測を得意とし、過去の出来事や状況を繋ぎ合わせて根本的な原因を探求する傾向がある。この2点の違いから、男女は問題解決の過程で衝突することがある。例えば子供が「気分が悪い」と言ったとき、女性はその日の朝や前日の様子、保育園からの連絡を振り返り、体調を崩す要素がなかったか探し出そうとする。男性は、とりあえず病院に連れていこうとするなど、具体的な行動に移そうとする。日々の子供の様子を気にせず早合点する男性は、女性からは子供の心配をしていないように感じられる。男性は、早急に子供を苦しみから救わない女性に焦りと怒りを感じてしまう。
3、2、ゴール指向
男性ホルモンであるテストステロンは競争心や向上心を高める効果があり、目標達成に向けて努力することを促すと言われている。先が見えなくても行動できるプロセス指向の女性脳とは異なり、男性脳はゴールに向かって行動する傾向がある。長期的な活動でも目標や志が設定されていると作業が捗りやすいため、指示を小出しにするよりも全体像を伝えてしまう方が良い。
会話においては、結論や要点を先に話し詳細な説明を後から付け足していく傾向がある。無意識に相手も結論から話していると感じてしまい、相手の話を最後まで聞かずに早合点してしまうこともある。出来事の話をするときには、結末だけを簡潔に話し経緯を省略する傾向があるため、情報不足によって誤解や信頼関係の低下を招く恐れがある。
簡潔な結論を求める傾向から、焦点の合っていない話や目的が不明瞭な話は遮断している可能性が示唆されている。会話中に男性が上の空な様子であればその状態である可能性が高く、その状態の男性に話したことを後から確認すると「聞いていない」と言われてしまう。「聞いていない」という表現から、聞いた話を忘れてしまったのではなく受信を遮断した状態と考えられている。話の目的が明確であれば長時間聞き続けることができるため、最初に何について話すかを伝えると良い。話の中に数字を盛り込むと集中力が継続するとも言われている。
早合点してしまう会話例
自分「先週は進捗が遅れてしまっていたのですが、」
男性「納品先には連絡したの?納期を延ばせないか聞いてみた?」
自分「いえ、今週」
男性「連絡してないの?今週連絡するんじゃ遅いよ!」
自分「今週持ち直すことができました」
4、攻略テクニック
4、1、女性と会話を続ける方法
女性は、出来事の経緯を話す傾向がある。その場合、伝えたいことは出来事の経緯そのものと感想であり、感想に共感してもらう目的がある。具体的に「共感する」とは、相手の感情・気持ちに理解を示すということだ。ポジティブな話には「いいね」「楽しめてよかったね」など、共感できない話には「そうか」「そうなんだ」「そういうこともあるんだね」などと相槌を打つとよい。
愚痴や悩みに対しては共感と労いが有効だ。基本的に女性が使った形容詞を反復して共感を示す。言い換えると女性の感情とズレてしまうことがあるため、同じ言葉を使うとよい。しばらく共感した後、解決策を提案したい場合は自分が力を貸すことを提案するとよい。過去の話に「気持ちに気付かなくてごめん」、力を貸すことが難しい話には「力になってあげられなくてごめん」と、協力できなかった旨を謝罪することでも、女性の気分を回復させることができる。協力できなかったことを謝罪することが目的のため、謝罪の内容は物理的に実現できないことでも問題ない。
「分かる!」という相槌はあまり有効ではない。他人の気持ちに理解を示すことはできても、全く同じ感情を共有することはできないからだ(「辛い」という感情は理解できても辛さの程度は共有できない)また、こちらが経験したことのない出来事の話には使えない。
相槌を打つ会話例
女性「今日ね、職場の女子グループでパスタ食べたの」自分「突然何の話?」
自分「そうなんだ、よかったね。おいしかった?」
女性「うんでもね、音立てて啜る人がいるから気分悪いんだよね…」自分「美味しいもの食べてるのにそれはムカつくね」
自分「それは気分悪いね。お疲れさま」
女性「他のお客さんからの視線とか恥ずかしいの。毎日毎日ほんと迷惑~」自分「その人は誘わなきゃいいじゃん。嫌なのに毎回誘ってるの?」
自分「同じ職場だったら一言言ってやれるのに。傍にいてあげられなくてごめんね」
4、2、男性と会話を続ける方法
男性との会話を円滑にするには、男性の話し方の特徴を知っておくと良い。男性は経緯や感想を話すことは少なく、データや事実について結論のみを簡潔に話す傾向がある。男性ホルモンのテストステロンは感情表現を抑制する働きがあるとも考えられている。また、こちらの発言は言葉のまま受け取り、遠回しな言い方をすると伝わらない。自分の発言にも裏表がなく、言葉以上の意味を込めないことが多い。
その他、意見の主張や自慢話をする傾向があり、その場での優越感を得たいという感覚が強いことが多い。議論の際には男性の意見を尊重しながら話し、自慢話が始まったら「凄いですね!」と気持ちよく褒めてあげると良い。こちらをを見下している可能性は低く、それを分かった上で下手に出た話し方をすると良い。
男性とやり取りが続く会話例
自分「京都に旅行に行ったんでしたっけ?」
男性「うん」
自分「どこを観光したんですか?」
男性「金閣寺と清水寺だよ。あ、写真見る?俺写真撮るの上手いの」
自分「わぁー!見てみたいですー!」
男性「これだよ」
自分「かっこよく撮れてますね!観光は楽しめましたか?」
男性「うん」
男性とうまくやり取りできない会話例
自分「京都旅行どうでしたか?」
男性「どうって・・・混んでた」
自分「いや、そうじゃなくて、何か面白いことありませんでしたか?」
男性「面白いことなんてないよー。混んでて疲れた」
自分「え、楽しくもないのに旅行に行ったんですか?」
男性「楽しんではいたよ。金閣寺と清水寺行ったし」
自分「じゃあそのこと話してくださいよ」
男性「そのこと・・・?」
4、3、女性の話を終わらせる方法
女性は話を聞いてもらうことが目的の場合があり、悩み相談に聞こえる話も雑談の可能性がある。それらの話には結末がないため、相槌を打っていると話が終わらない。雑談の場合は、関連した話題をこちらが話し始めることで、会話の主導権がこちらに移り話を切り上げやすくなる。
愚痴を終わらせたいときは「今は大丈夫?」「あなたはどう?」などと現状を質問すると、会話を進展させることができる。会話が進まない場合は、解決策を提案すると話を切り上げやすい。
雑談を終わらせる会話例
女性「昨日会社でこんなことがあって、〇〇で××で~」
自分「そうなんだ」
女性「△△で~、□□で~、**で~」
自分「**と言えば、この前映画観に行ったんだよ!〇〇で××で~」
女性「ふ、ふーん」
自分「あ、私ばっかり話しちゃってごめん!そろそろ仕事に戻るね」
愚痴を終わらせる会話例
女性「Aさん、仕事進めるのがすごく遅いんだよね~」
自分「そうなんだ、大変だね」
女性「この前も~~ってことがあって~」
自分「リーダーはなんて言ってるの?何か対応してくれた?」
女性「あのリーダーも叱らないタイプだから頼りにならないよ」
自分「そうかぁ。じゃあ他のリーダーに頼っちゃいなよ。頑張って!」
4、4、男性に上手く報連相する方法
出来事の発端や経緯、個人的感想を長々と述べると怒らせてしまう可能性が高いため、会話の際には結論を先に話す。質問をするときも結論を問う形式で、「これって、こうしていいですか?」とYES/NOで答えられるようにする。Howを尋ねたい場合、「この問題を解決するために、どのような方法が考えられますか?」と具体的に質問すると、建設的な議論が期待できる。男性脳は抽象的な表現から察することを苦手としており、「どうすればいいですか?」「どう思いますか?」という言い方では何を質問しているのか伝わらない。議論の際には淡々と理由を説明する方が理解を得られ、感情的になって気持ちを伝えようとしても伝わらない。
男性に伝わりやすい報連相の例
自分「この業務、A部門と連携を取りたいんですけどいいでしょうか?」
男性「なんで?」
自分「~という経緯がございます。」
男性「なるほど、許可するよ」
自分「ありがとうございます!」
相手「でも断られるかもしれないよ。A部門は今忙しいから」
自分「そうなんですか!断られてしまった時は他にどんな手段があるでしょうか?」
男性「B部門でもできる人がいると思うよ。A部門から異動した人がいるから」
4、5、女性に質問に答えてもらう方法
女性に5W1Hの質問をすると、的外れな回答をする上に突然怒り出すこともある。これは、女性脳は共感性が高いことから、質問の意図を深読みし相手が言わなかったことを想像で補完してしまうためだ。またその時、攻撃的な内容で補完してしまうことが多い。女性は協調性を重視する傾向があり、周囲から自分がどう思われているかを気にしているためだと考えられている。一方、男性は論理的な思考や簡潔な表現を好む傾向があるため、発言にはそれ以上の感情は持っていない可能性が高い。この違いがすれ違いを起こしやすい。
例えば「その服買ったの?」と女性に質問した場合、「この前も買ったのにまた買うなんて無駄遣いじゃない?」「なんでそんなダサい服選んだの?」などと補完してしまう。「その服見たことない気がするけど、新しく買ったの?」などと知りたいことを具体的に聞くと、誤解を招きにくくなる。また、「かわいいね」「似合ってるね」など、肯定的な表現を加えると尚よい。批判されていないことが分かれば、回答を含むストーリーを話してくれる。
女性が質問に答えてくれない会話例
自分「おかず、これだけ?」
→これだけしか作れなかったの?
→夕飯の支度を手抜きしたの?
→出来の悪い主婦だな。
女性「私だって忙しいのよ!仕方ないでしょ!」
女性が質問に答えてくれる会話例
自分「今日のおかず何品ある?美味しそう~」
女性「今日はきゃべつを使い切りたかったから野菜炒めにしたの。
あと、会議が長引いて退勤するのが遅くなっちゃったからスーパーで揚げ物買ってきた。
おかずが少なかったら、冷蔵庫に豆腐があるから冷奴でも出すよ」
5、最後に
男性脳・女性脳の知見を持っていることで、日常生活でのコミュニケーションを円滑にすることができる。ただし、男性脳・女性脳は「感性の傾向」であり、統計的な事実はあるが未だ根拠に乏しい。現在では、男性の多くがよく使う思考回路・女性の多くがよく使う思考回路があり、誰もが四六時中その思考回路を使っているわけではないということが分かっている。故に、「あの人は男性脳、この人は女性脳」と決めつけず、「今は男性的な傾向が出ている」などと柔軟に判断しコミュニケーションに役立ててほしい。