プレゼンを成功させるためには、資料以外に話し方も重要だ。資料が分かりやすくても、口頭での説明が説得力に欠けていては、聞き手を満足させることはできない。また、流暢に説明するだけでもいけない。聞き手はプレゼンにある種の期待を持っている。良いプレゼンとはその期待に応え聞き手を満足させることであり、スムーズにプレゼンをすることではない。この記事では、話し方にフォーカスした続きが聞きたくなるプレゼンのコツを解説する。
1、自己紹介
自分の人柄が分かるエピソードや具体的な実績を盛り込む
自分の経歴は自分で良く分かっているため、つい簡潔にまとめすぎてしまう。「モノは誰から買うかが重要」とも言われ、自分のことを聞き手に印象付けることは大切だ。自己紹介をする場合は、聞き手が頭の中で風景を思い浮かべられるように話すと印象に残りやすい。
【NG例】
「10年間で100社以上の企業をコンサルティングしてきました」
→聞き手が業界知識を持っていなければ、どのくらい凄いのか分からない。また、「コンサルティング」といわれても、業務内容が想像できなければどんな能力に秀でているのか分からない。
【改善例】
・従業員を含めて「累計●人のお客様を支えてきました」と具体的な人数で表現する
・企業名・業種・従業員数・コンサル年数など、顧客の例を挙げる
・どんな業務をしてどのくらい業績が向上したかなど、仕事の様子や成果を話す
個人的すぎる話は避ける
出身地や好きな食べ物、趣味など、個人的な事柄は避けた方が良い。少人数での自己紹介では有効なことが多いが、プレゼンでは必要ない。聞き手は、話し手の経歴やプレゼンに至った経緯に関心があるからだ。
聞き手のことには触れる
聞き手が企業や団体であれば、組織や所在地について事前に調べておく。アイスブレイクとして組織の活動内容や直近のニュース、または付近の観光地や飲食店について話すと「よく知っていますね」と緊張感がほぐれる。相手との共通項があると心理的な距離がぐっと近づく。こういった新鮮な情報を収集するときはTwitterが相性が良い。
2、プレゼン資料に進む前にやること
聞き手が「知りたい」と思っていることは何かを確認する
【質問例】
「プレゼンに進む前に「これについて話してほしい」と思うことがあれば教えていただけますか」
「今日は20分しか時間がありません。ですので、最初に一番知りたいと思っていることを教えていただけますか」
プレゼンでは、相手が本当に聞きたがっていることを説明すればよい。だから、上記の質問をし、回答によってはその場で説明の順番を変えたり省略したりする。
発表者も聞き手も、プレゼン開始時に題材や発表の意図を100%理解しているとは限らない。そのため、聞き手が知りたいこととプレゼン内容にズレがある可能性がある。だから、この質問をして聞き手が知りたいことを確認しそれに合わせた説明をするとよい。同じ事柄に関するプレゼンでも、相手が初対面の潜在顧客の場合と他部署の上司の場合とでは、知りたい情報が異なるはずだ。
準備した通りにプレゼンをする必要はない。順序良く説明できても、漏れなく説明できても、聞き手の知りたいことが伝えられなければ意味がないからだ。スムーズにできたプレゼンが、必ずしも良いプレゼンとは限らない。
3、話し方のコツ
敬語を使い過ぎない
相手に失礼のないようにと心掛けるあまり敬語を使い過ぎてしまうことがある。敬語が多いと話がだらだらと冗長的になり、何を言っているのか分からない。1つの文章に1つ敬語が入る程度の頻度を目安にし、簡潔に話すと良い。
【NG例】
「本日は当社の新商品についてご説明させていただきたいと思います。ぜひ最後までお聞きいただければ幸いでございます」
【改善例】
「本日は当社の新商品についてご紹介します」
普段よりも大げさに抑揚をつける
特に強調したい要素を明るく力強く話すことが有効だ。例えば「自宅で簡単にできる最強トレーニング」というキャッチコピーの場合、「自宅でできる」「簡単にできる」「最強の方法」という3つの要素がある。「最強」にイントネーションの頂点になるように段階的に強調して話すと、感情が乗りなんだか面白そうな話に聞こえる。面白そうな話には興味が湧き、続きが気になって聞き続けたくなる。
また、「喜び」を語るなら嬉しそうに、「楽しさ」を語るなら楽しそうに、「最強」を語るなら力強く、伝えたいことに合わせて表情と語感を演出するとより伝わりやすくなる。ただ、ロジカルで冷静な解説が求められる場もあるため、TPOに合わせてテンションを考えよう。
話し方は会話調
語尾は「です」「ます」だけでなく、時々疑問形にして聞き手に投げかけよう。同意を求める共感系の質問をして聞き手を巻き込んでいくのもよい。この話法は「ジャパネットたかた」の高田明氏や、ジャーナリストの池上彰氏も用いている。池上氏は共感系の終助詞である「ね」をよく使っており、聞き手に語り掛ける臨場感を演出している。
【質問系】
「~ことをご存じですか?」
「~だという方はいらっしゃいますか?」
【共感系】
「~なんて経験もありますよね?」
「~するのって面倒ですよね?」→高い・不便など
「~できると嬉しいですよね!」
ジョークを入れる
自虐的なジョークは、やりすぎて信用を失わない程度であれば聞き手の心をつかむ効果がある。聞き手の心が離れてしまえば、発表者の話は耳に入らない。聞き手がジョークに笑っているということは、話を聞いている証拠だ。
言い間違いは訂正しない
言い間違いが多いと信憑性や信頼度が低下してしまう。言い間違えた時は、「ジャン……プも読むけど、サンデーの最新号読みました!」と取り繕ってしまえばよい。
ブリッジを準備しておく
ブリッジとは、スライドとスライドの間を繋ぐトークのことをいう。ブリッジを入れることで、説明がブツ切りにならず流暢に聞こえる。ブリッジには「しかも」「実は」「続いて」「さて」などの接続詞を使い、紙芝居のように煽りながらスライドを展開するのがコツだ。
【NG例】
「こちらが交通事故の統計です」→スライド1を表示
「事故の原因にはこのようなものがあります」→スライド2を表示
【改善例】
「こちらが交通事故の統計です」→スライド1を表示
「では、これらの事故はどのような原因で起きているのでしょうか?
事故の原因にはこのようなものがあります」→スライド2を表示
スティーブ・ジョブズの話し方
ポイントは3つにする
人の短期記憶の限界は1~4個と言われており、3個であれば覚えやすく思い出しやすいと考えられている。ジョブズはこの法則を多用していた。iPhoneを発表する際には、ポイントを「大きな画面のiPodで、タッチ操作ができる」、「通話ができる」、「ネット通信ができる」の3つにまとめて説明した。
ストーリーテリング
人はデータやただの事実よりも、ストーリーに感情を動かされる。ジョブズは、ピクサーで培った経験からストーリーテリングを得意とし、ヒーローと悪役のような対比、コントのようなジョーク、まさかの展開など、聞き手を飽きさせない工夫を凝らしていた。iPhoneを発表する際には、最初は「新製品を3つ紹介します」と言っておき、3つのポイントを話した後「実はこれは1つのデバイスなのです」というどんでん返しの結末を演出し、観客を驚かせた。
4、視線のポイント
ワンセンテンス・ワンアイコンタクト
一言話すごとに一人を見る技法であり、比較的取り入れやすい。プレゼン中に話し手と目が合った聞き手は「自分にだけ語りかけている」という印象を持ち、内容の説得力を増すことができる。
【ワンセンテンス・ワンアイコンタクト手順】
①観客席を左・中央・右の3つのブロックに分ける
②左のブロックの一番奥の観客のうち、誰か一人と目を合わせる
③話の切れ目になったら目線を離し、隣のブロックに移る
④これを繰り返し、一番手前まで来たら一番奥に戻る
※視線を休ませたい時は、正面を向いて全体を見渡す
5、ジェスチャーのポイント
ジェスチャーをつけるタイミング
聞き手の視線の自由度は心の自由度と比例していて、プレゼン中によく動き回る方が話のスケールを大きく感じさせることができる。ステージの場合はわざと端から端へ歩いたり、プレゼンの場合はスクリーンの左右を行き来したりして、自分の姿を目で追ってもらうようにする。
身振り手振りは、タイミングよく取り入れると内容が伝わりやすくなる。例えば、「このくらいの大きさの」と物の大きさを説明するとき、「こちらの図をご覧ください」とスクリーン上の位置を示すとき、「私は」「皆さんは」と人を示すときに取り入れると良い。「ポイントは3つあります」と数を言うときや順序を説明するとき、カウントをする時などに、指で数字を表すのも良い。
スクリーン上を指し示せない場合は、「画面ズーム」や「蛍光ペン」の機能を使おう。レーザーポインタや指し棒は聞き手からは見えにくく、どこを指しているか分からない。また、「上から2行目ですが」や「右側のメガネの男性ですが」など、見てほしい位置や画像を言葉で説明すると分かりやすい。
6、質疑応答のポイント
相手の名前を呼ぶ
質問者が名乗った時に復唱する。名前を呼ばれると親近感が湧く。
まだ一度も質問していない人を優先する
同じ人に何度も質問させると自ずと掘り下げた質問が増える。初めて質問する人は浅い質問をすることが多く、回答しやすい。
7、最後に
プレゼンで最も大切なのは事前準備だ。
話す準備
スティーブ・ジョブズはプレゼンの練習を欠かさなかった。役者が舞台の練習をするかのように、言葉の言い回しや抑揚、身振り手振りなど、何日もリハーサルを行ったという。プレゼン資料は口頭での説明を補完するものに過ぎず、作り込む必要はないことが多い。
また、認知科学者のシアン・リア・ベイロック氏によると、軽度のプレッシャーがかかる環境で練習をしておくと本番で緊張しなくなるという。脳が最も不安を感じるのは正確には本番前であり、本番中はあまり不安を感じない。そのため、繰り返し練習して自信をつけてしまえば、「緊張するまでもない出来事だ」と脳が認識し、本番直前に無駄にドキドキハラハラしなくて済むようになる。プレゼン発表であれば、まずは録画しながら一人で練習し、ある程度できるようになったら友人や同僚に見てもらうと良い。
技術的な準備
会場での突発的な事故には注意する。コネクタが繋がらない、電源が入らない、資料が映らないなどのトラブルで手間取ると、信頼度が下がりプレゼンの説得力にも影響してしまう。スムーズに始められるよう、余裕を持って準備しよう。
SOURCE
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